第56回海上保安庁観閲式及び総合訓練
       Japan Coast Guard Inspection parade 2012
●人命救助訓練・海上防災訓練
 突然、沖合に停泊していたタグボートから大きな爆発音と共に火柱が上がりました。同時に海上保安庁本庁に118番通報が届き、船内の状況を伝える逼迫した声が響きます。
 『はい。海上保安庁118番通報です。』
 『もしもし、海上保安庁ですか?タンカー〇〇丸です。突然タンクが爆発しました。すぐに救助をお願いします。』
 『おちつ、落ち着いてください!場所はどこですか!?』
 『場所は、浦安沖です!』
 『乗組員は何名ですか?』
 『乗組員は、私も含め2名です。1名は脱出し、海上を漂流中です。私もこれから退船します。早く救助をお願いします。』
 『総合指令センターから一斉指令。浦安沖でタンカーが爆発。乗組員2名が脱出。海上を漂流中。直ちに現場に急行せよ。』

 海上保安庁では海上における事件・事故の緊急通報用電話番号として、局番なし3桁電話番号「118番」の運用を2000年5月1日から開始しています。
 ・海難人身事故に遭遇した、または目撃した。
 ・油の排出等を発見した。
 ・不審船を発見した。
 ・密航・密輸事犯等の情報を得た。
 以上の場合において、「いつ」、「どこで」、「なにがあった」などを簡潔に落ち着いて通報してください。現状、間違い電話やいたずら電話などが90%以上を占める状況であり、正しい利用と認知の促進をお願い申し上げます。

 指令を受けたMH965「みほづる」が現場に到着し、漂流者1名を発見しました。特殊救難隊員が海面飛び込みと言われる方法で救助を試みます。文字通りヘリコプターから隊員が直接海に飛び込み、要救助者を保護する方法であります。飛び込む平均的な高さは5メートルから10メートル。飛び込む特殊救難隊員は高度な訓練を受けており、くれぐれもマネしないでください。


 隊員が漂流者を保護し、ヘリコプターへの収容を試みます。ヘリコプターからホイストクレーンと呼ばれるロープで吊り上げます。ヘリコプターは同じ場所に滞空し続けるホバリングと呼ばれる高度なテクニックを見せており、今回は東京湾なのでなかなか想像に難があると思いますが、いざとなれば荒れた冬の日本海でもこのような活動をしなければなりません。

 特殊救難隊員や潜水士はヘリコプターからの降下能力や潜水能力を持ち、海難事故などに対応するため巡視船にも乗船しています。

 もう1名の漂流者を保護するためにMH805「わかわし」が現場に到着し、ライン降下と呼ばれる方法で救助を行います。こちらは先ほどの海面飛び込みとは違い、隊員がヘリコプターからロープで降下しつつそのまま要救助者を保護するというもの。降下する隊員は無線でパイロットとコンタクトを取りながら徐々に漂流者のもとへ近づいていきます。

 降下した特殊救難隊員が漂流者を保護し、隊員と一緒に吊り上げ、ヘリコプターの機内へと運び込みます。

 『漂流者を保護。本海域を離脱し、巡視船おきへ向かう。』
 漂流者を収容したヘリコプターは漂流者の応急手当のため巡視船「おき」へと向かいます。

 ヘリコプターは沖合で待機していた巡視船「おき」に着船し、漂流者は船内の医務室へと搬送されました。船によっては大型の医務室や手術設備を備えているものもあり、大規模災害時には拠点としての活躍が見込まれます。

 写真のように大型ヘリコプター・スーパーピューマが巡視船「おき」に着船することは「おき」の甲板の耐久性能上、本来ならば行われないものですが、今回はプログラムの都合上、訓練展示の一環として実施されました。なお、「おき」の改良型である「えりも」型以降では甲板の耐久性が見直され、大型ヘリコプターの着船も可能になっております。

 漂流者2名の保護が完了し、本格的な消火作業に入ります。火災船舶はそのまま漂流してしまう恐れがあるので迅速な鎮火が求められます。そのため海上保安庁のみならず各消防機関も消防艇を有しており、いつ何時の火災にも対応できる態勢をとっています。
 『ひりゅうから運用指令センター。消防船艇5隻が現場付近に到着した。』
 『ひりゅうから運用指令センター。タンカーが2回目の爆発を起こした。これより消火作業にあたる。』
 『ひりゅうから消防各船。現場へ急行し同時に放水を開始せよ。』

 けたたましいサイレンを鳴らしながら第三管区鹿島海上保安部巡視艇「よど」が該船のもとへ急行します。鹿島という地名の通り、コンビナート火災においてもその放水能力を活かして海上からの消火を行います。実際に海上保安庁最強の消防艇「ひりゆう」が2011年に発生した東北地方太平洋沖地震における千葉県石油コンビナート火災で消火活動を行っています。

 巡視艇「よど」の他、巡視艇「はまぐも」、消防艇「ひりゆう」、東京消防庁の消防艇「みやこどり」、横浜市消防局の消防艇「よこはま」が消火活動に加わりました。写真では巡視艇「よど」「はまぐも」が並んで放水している様子がご覧いただけるかと思います。