第22回 今の生活の基礎はイスラム中世にあり!

○計り知れない影響

 さて、ここで久しぶりに文化の話。
 今、私たちの暮らしは欧米化された・・・・などと称されますが、実は大きな間違い!さらにそのルーツをたどると多くはアッバース朝時代にたどり着くと言ったら言いすぎでしょうか?

 たとえば、一日の仕事を終えたら後は自分の時間。自分の時間の使い方は、基本的には政府に左右されたり、村の長老に規律されたり・・・なんてことはないですよね?他にも、育児に関して政府がいちいち介入することもないですよね?当たり前のことのようですが、こんなことが可能になった最初はアッバース朝時代のイラクだったりします。他にも、アパートの賃貸契約もこの時代に成立。

 それから以前にもお話しましたが、アッバース朝と後ウマイヤ朝に、唐から製紙法が伝来。これが縁で1189年にフランスに伝わります。それから、数学なんかもそうです。古代ギリシャの数学を受け継いでいたのは、実はイスラム世界。ヨーロッパでは大混乱で失われてしまったのですが、イスラムで生きていました。

 さらに、これにインド数学、つまり(0,1,2、3・・・・)といった数字にゼロという画期的な数学を取り入れます。これがヨーロッパに伝わり、アラビア数字として使用されているのはご存知のことかと。さらに、三角関数代数の大半はイスラムの学者が大成。三角関数覚えています? sinθ、cosθのことですよ。また、代数はフワー・リズミー(780〜850年)というアッバース朝の学者が有名。

 まだまだあります。国際交易が盛んだったイスラム世界では、小切手というものが発行され、これも今では当たり前。最初の例は8世紀のバグダードだそうです。いやいや、そもそも完全な貨幣経済を実現したのがアッバース朝です。国内すべての売買・税金などが貨幣で納められました。また、考えてみれば官僚制を基礎に、兵士は給料を払って雇う、これなんかも今では当たり前のシステムですが、イスラムが最初。近代国家システムはすでにここに成立しています。

 再び理学分野に戻りまして・・・・。観測・実験を重視し、そこから理論を導くというのは科学の鉄則(違っていたらごめん)。これも、イブン・アルハイサム(963〜1038年)がスタートさせたこと。ファーティマ朝時代の学者。カイロ在住で、ラテン名をアルハーゼン。ちなみに彼は、光の屈折とか凸レンズ・凹レンズの研究をしました。この人のおかげで、後のヨーロッパでロジャー・ベーコンガリレオが活躍することになります。

 それから、アリストテレスのごとく多分野で研究を行ったのがイブン・シーナー(980〜1037年)。基本的には「医学全集」全5巻が最大の功績で、他にも動物学とか気象学とか研究し、中世ヨーロッパでは教科書のごとく扱われました。扱われすぎたために、アリストテレスの著作とともに、この人の説をひっくり返すのが難しくなったんですけどね。

 また、医学といえば外科の技術の進歩にも注目。それから、数学もそうでしたがギリシャ哲学もイスラム圏でアラビア語に翻訳されていたからこそ、今に伝わっているのです。イブン・ルシュド(1126〜98年)がアリストテレス研究の代表。

 以前にも登場した、後ウマイヤ朝のジルヤーブ。彼が大成した食事マナーは今の基礎。レストランで最初にスープが出てきて、次に肉料理と野菜、その次にデザート。最後に食後のコーヒー。そのコーヒーはイスラム圏では8世紀から飲まれていましたが、ヨーロッパで飲まれるのは17世紀以降。

 終わりに、アラビア語からヨーロッパの言葉になったもの。アルコール、アルコリズム(算術)、ソーダ、シロップ、マガジン(雑誌)、アルカリ、アルケリー(錬金術→ケミストリー・・・化学)、シュガー(砂糖)などなど・・・・。イスラムを侮ることなかれ!!

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