第三十一話 初乗り教習

 いよいよ、二輪の実技教習がはじまる。私は教習所の練習コースにはいり、教習所で貸してくれるブーツとヘルメットを装備して教習がはじまるのをまった。最初はフルフェイスヘルメットを被ろうとしたが、メガネを外してから被らないといけないので、メガネをはずさずにそのまま被れるジェットヘルメットを被ることにした。そしてチャイムが鳴り教習がはじまる。

 教習生は教習の進み具合におうじた色のゼッケンをつける。教習が三時間以前の人のゼッケンは赤、第一段階の人は黄色、第二段階の人は青のゼッケンになっており、さらにゼッケンには大きく数字がかかれており、教習生は自分が教習を受けた時間と同じ数字のうたれたゼッケンを装着する。そして教習がはじまる際には教習生は数字の大きい人・・・つまり教習が進んでいる人から順番に整列する。いうまでもなく初めて教習をうける私は一番端に並んだ。


 挨拶がおわると初乗り教習生以外は「ならし運転」のためにバイクに乗り込む。初乗り教習生は教官にコースの端っこにつれていかれる。初乗り教習生は私を含めて三人いたのだが、残りの二人は友人同士のようだ。


 まずはバイクの取り扱いである。教官は新しいバイク(多分大型バイク)が今日入ってきたという話をしたあと、ふいに私に


「大型(バイクの免許)とるんでしょ?」


と聞いてきたが、私はきっぱり


「とりません」


と答えた。私は大型スクーター(普通免許でのれるもの)に乗りたいだけで別に大型免許を必要とは思っていなかったのである。


 まず、バイクの基本的なパーツや操作の仕方の説明をうけたあと、倒れたバイクをもちあげる教習となった。バイクはだいたい200キロほどあるのだが、コツを掴めば容易にもちあげることができる。早速、私は教官の説明通りに持ち上げてみるのだが・・・あがらない・・・。


 私がふんばっていると教官が


「あんまり無理してやって腰をいためる人がいるから無理はしなくていいよ。」


と事前にいわれていたのだが、無理をしなかったらこのザマだ。後の二人はなんとか持ち上げることができ、私は教習はじまってそうそう「教習大丈夫か?」と自問自答するハメになり、自動車教習時代の惨めな思いが脳裏をよこぎった。


 そして、いよいよバイクに実際乗ってみるという話になった。


「マズイ。」


 自動車の教習のろきは一時間目はシュミレーターだったがバイクの教習は初っ端から実車である。しかも、先ほどもちあげて(もちあがらなかったのだが)わかったのだが、バイクは想像以上に重い・・・、果たしてこんなものを操れるのだろうか・・・。


 教習用のバイクは倒れても大丈夫なようにボディの横に出っ張った金属フレームがついている。バイクに乗って転倒しても、このフレームが先に地面に接触し、ボディが地面に接触しないようになっているので、車体に足を挟まれないで済む。さらにバイクの正面と後ろには数個のランプが横に並んでついており、どのランプが点灯しているかで、今現在、ギアが何速にはいっているかを、搭乗者以外の人間が知ることができるようになっている。このランプは外側に向かってついているため搭乗者にはみえない。そう、このランプは教官が見るためについているのである。一見すると教習車は暴走族がのっている族車のようにみえなくもない・・・。


 もう、まった無しである。私はバイクにまたがりスタートボタンを押す。


「おお!! スタートボタンで起動するぞ!!」


 当たり前のことなのだが、普段、バッテリーが完全にあがっていて、スタートボタンをおしてもウンともスンともいわない原付に乗っている私にとっては感動的な出来事であった。


 バイクのエンジン音は原付のものとは比べ物にならないほど大きい。他の二人も同時にエンジンをかけたので、私は自分のバイクのエンジンがかかっているのか少し不安になった。実はこのエンジン音は他の二台のエンジン音ではないのか? 私のバイクは実はエンストしているんじゃないかと勝手に不安にかられていた。バイクの振動をほとんど感じなかったことも勝手な不安を生む一因だったと思う。


 しかし教官が何もいわないところをみて「かかっている」ことを確認した。実技への苦手意識過剰のもたらした弊害である。そして教官は発進するように指示をしてきた。秋口ということもあり、教習がはじまったときはまだ明るかったのに、一時間もたたないうちに辺りは暗くなっていた。


 左手のグリップを握りクラッチをきり、左足をクラッチペダルにかけてクラッチペダルを踏みつける。ギアはニュートラルからローギアにはいる。ちなみに、自動車は今現在ギアがどこにはいっているかを一目で確認することができるのだが、バイクは確認することができない(ただニュートラルにギアがはいっているかは確認できる)。


 そしてクラッチをジョジョにつないでいく・・・。自動車でもそうなのだが一速目のギアをいれるときはいきなりクラッチをつなげないでジョジョにクラッチをつないでいく、停止している機体を動かすのには多大な力がいるので、いきなりギアをつないでしまうとエンジンに負荷がかかりすぎて、エンジンが停止してしまう・・・そう、エンストである。


 ジョジョにクラッチを繋げていくとバイクの車輪にエンジンの動力が伝わりゆっくりと機体は動き出す。ある程度の速度がでると私は地面に接していた左足を離し、ゆっくりと機体をすすめる。ゆっくりであるが力強い走りに(スピードがでないギアはパワーがでるので、ゆっくりで力強いのは当たり前といえば当たり前なのだが)私は原付とはあきらかに違う機体の性能を感じた。不安はあったものの、同時にこのバイクの力強さに感動を覚えていた。


 数メートルすすんだところで、クラッチをきり、右足のほうについているフットブレーキをふみ停止した。なんとか基本的なところはできた。だが、教習はまだはじまったばかりである・・・。


棒