第五十六話 鋼鉄の原付ライダー見参!!
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二輪免許を獲得したものの、オートバイを買うお金がない私は、相変わらず原付を乗り回していた。
大学3年生の12月となると、就職活動がスタートする。私も就職サイトに登録をして、志望企業にエントリーを始めていた。
一方で玉麒麟との同人活動も、あいかわらず続けていた。玉麒麟はイラストレーターになりたいらしく、就職活動を一切していなかった。
年が明け、暫くして、同人サークルメンバーの集まりが玉麒麟の下宿で行われた。招集をかけたのは、「黒幕」アドルフ・・・「デジヲ伝2」では、我々ともう一つのサークルの運営に協力をしていたのだが、現在では我々のサークルの運営の手伝いのみしている。そして、そこには三人目のサークル員、デジヲが来る予定であった。
「デジヲ伝2」の段階ではデジヲは我々と違うサークルに属していたのだが、デジヲのサークルメンバーは、デジヲのみが名古屋に住んでいて、他のメンバーは静岡県西部に住んでいたため、デジヲと他のメンバーの交流がもちにくくなってしまったようで、アドルフの仲介(暗躍と言ったほうがしっくりくるだろうが)によって我々のサークルに属することとなったのだ。
アドルフは秘密主義なところがあるため、事の詳細はきいていないが、アドルフもデジヲと同じく名古屋に住んでいたため、デジヲが元属していたサークルメンバーと交流がもちにくくなってしまい、我々のサークルにのみ協力をするようになってしまったのだろう。もしかするとデジヲはアドルフの手土産だったのかもしれない。
もっとも、実績も何もない我々のサークルに、実績のないデジヲが来たところで、大勢がかわるような事は一切ないのだが・・・。
デジヲはデ・ジ・キャラットを筆頭に、美少女キャラをこよなく愛する生粋のヲタク(私も人のことを言えた義理ではないが)であったが、実は大学ではトライアスロン部の部長を務め、運動部を束ねる体育会の役員まで務めているバリバリの体育会系なのである。
「デジヲ伝2」で原付で片道140キロを走破した体力には、確かな裏付けがあったわけだ。
私が玉麒麟の下宿に到着すると、すでにアドルフは到着していた。デジヲはまだ来ていなかった。するとアドルフの口から、
「デジヲの原付、壊れたらしいよ。」
との事。なるほど、今日は電車で来るんだろうなと思っていると、デジヲが到着した。
デジヲがドアを開け入ってくると、私と玉麒麟、アドルフは呆気にとられた・・・。
デジヲは全身に競技用自転車のタイツをまとい、股間を守るための防具がタイツの下にしこまれている為、股間はもっこりと異常な膨らみを帯びていた。
「ま、まさか・・・。」
私は認めたくなかった。まさか、名古屋からココまでの100キロを自転車で走破してきたのではないかということを・・・。
「自転車で・・・きたのか・・・?」
「そうだよ。」
アドルフは、誇ることもなく、さも当たり前のように答えた。
「よくもまあ・・・。そんな気になったものだね・・・。」
「1日も来たから。」
「え!?」
デジヲは元旦の日もこちら方面に用があったようで、朝日を浴びながら自転車をこいできたとのこと・・・・・・。その時は集合時間の関係で夜明け前に名古屋を出発してきたそうで、走行中に、初走りをしていた暴走族に絡まれたそうである・・・。
自転車で片道100キロ走破・・・。無謀でなく可能と判断したわけだ・・・。
しかし、何故、電車でこないのか・・・。
全ては「銭」の為!
だが、ただのケチではない。本当にケチならばこの集まりに顔をださないだろうし、そもそも同人活動などしないだろう。何を優先し、何を切り捨てるのか? 常人では図ることのできぬ基準を持つ漢(おとこ)なのだ・・・。スケールの小さい信長・・・、曹操といったところか。誤解を抱かれないように、もう一度言っておくが、スケールの小さいだ。極めて小さい。
デジヲ・・・この漢との関わりが、私と原付の関わりをじょじょに変えていったのである・・・。