第六十五話 あの夏の思い出 (原付ライダー外伝 二種免許伝2)

 「二種免許」をとることになった私、カリウス。

 何度も述べているように、車の運転は苦手だし、自動車学校には良い思い出はほとんどない。決して原付ライ ダー本編・二十三話の「裏切りの母校」で、二輪の教習を受け付けてもらえなかったからではない。それは普通一種免許を取りにいった十数年 前に遡る・・・。


 十数年前・・・、それは大学生になった年であった。地方都市、浜松に住む者にとっては生活していく上で自動車免許は必須である。個人差はあるので一概には言えないが、高卒の者なら就職に備えて高校在学中に免許をとり、大学に進学した者は、入学前の春休み、もしくは夏休みに免許をとる事が多い。免許はどのみちとらなくてはなくなるので、早いうちにとっておこうというわけである。


 ということで、私も夏休みを利用して免許を取りにいくことになった。

 しかし、もとより車が好きではなく、運動神経も常人よりも劣っている私は非常に憂鬱であった。できれば、取らずにやりすごしたいところだったが、そうもいかない。半強制的に自動車学校に通うことになった。


 自動車学校に通いだしてからというもの、学科教習は問題なく進めることができたが、実技教習はおぼつかな かった。私が自動車学校に通っていたときは、今のようにトラックでさえオートマ車の時代ではなく、オートマ車も優勢ではあったがミッショ ンの車も少なくない時代だったので、免許はミッションで取るというのが一般的であった。


 ミッション車はオートマ車と違い、ギアを切ったり繋いだりしないといけないのだが、うまく繋げられないとエ ンストを起こしてしまうからたまらない。運転そのものもおぼつかないのに、厄介なミッション操作もしなければならない。教官には散々怒ら れたり嫌味をいわれたりしたが(皆が皆、そういうことをしてくるわけではないが)、そもそも運転が好きで教官になっている人達と、運転と いう行為が好きではない初心者とのメンタル的、技術的な差を考えて欲しいと切に思った。


 案の定、規定の教習時間内に実技の課程を終了させる事ができなかったので、追加教習を行うことになった。

 もっとも、規定の時間をオーバーするのは珍しい事ではなく、教官の指導印を打つ欄(一時間教習をおこなうと、項目がクリアできたできないに関 わらず印が打たれる)は、規定時間以上にあらかじめ印字されている。それでも、欄が足りない場合は、追加の欄がテープで貼られて追加され ていった。


 一緒に教習を受けていた地元の友人達も追加欄が貼られていたが、私の追加欄は友人のものよりも多目にはられていて失笑を買ってしまった。


 しかし、その頃になると私の心は当初とは違う境地に達していた。


 私の入った自動車学校は料金プランが選択できるようになっており、規定時間を越えての教習である追加教習を 行う場合に時間数に応じて追加料金が発生するプランと、何時間追加教習を受けても追加料金のかからない定額制プランがあった。勿論、定額制プランは前者のプランよりも高額な設定になっている。

 運転に自信などない私は定額制プランを選択していたので、何時間教習を受けても追 加料金はかからない。ならば、要領よく振舞って教習をクリアしたはいいものの、実技試験に落ちてしまったり、試験に合格したはいいいが怖 くて路上を走れないという状態になるよりは、とことん車に乗って経験を積もうと開き直った。


 教官からは、

「早く教習終わらせて、夏休み遊びたいだろ。」

 とか言われたが、長期に出かける予定もなかったし、終日、自動車学校にいるわけでもない。むしろ自動車学校に 行くという予定のおかげで生活のリズムができて、ダラダラと夏休みを過ごす事を防ぐ効果もあった。


 何時間も乗っていると、どんなに下手くそでも、だんだんと慣れてくるもので、入校して一カ月すぎた頃には実 技試験に合格し、無事、免許を取得することができた。


 免許を取った時の喜びは今でもハッキリ覚えている。なんといっても「実技」という苦手なジャンルの試験に合 格したのが大きい。もし、これが学科試験だけだったら左程感慨はなかっただろう(そもそも、これほど苦労もしていなかっただろうし)。

 あんなに嫌だった自動車学校に御礼の挨拶に行こうと思ったくらいだ。


 とはいっても、である。

 何だかんだで免許を取得して、もう二度と行く必要がないから感謝の念が湧いているが、教習中の事を思い出すと、バイクの教習のように「楽しかった」という実感は全くなく、もう一度行きたいなどと思ったことはない。


 しかし、今になって再び自動車免許を取るために教習所に通わなくてはいけなくなるとは・・・。


 しかも今回は「自動車学校」でなく「教習所」にいかなければならないのだ・・・。

 この「教習所」経由で免許をとらなければならないということが、「教習所」に行くこと以上に私を苦しめてい た。その詳細は次回へ続く・・・。




棒