裏辺研究所 週刊?裏辺研究所 > 小説:バイオハザードin Japan棒

第35話:必殺の一撃

 銃弾は腹と胸に命中、炸裂する。だが、黒衣の巨人はわずかに仰け反ったものの、直後に何事も無かったように突進してきた。暴走機関車のようなショルダータックルが手塚に突き刺さる。強制的に与えられた運動エネルギーを、靴と床との摩擦で殺す。…大丈夫だ、衝突の瞬間、わずかに跳んだことで衝撃の大部分は受け流している。その事を確認したあと、黒衣の巨人の姿を見直す。銃弾が命中した箇所の衣服が破れているものの、その下の肉体に関しては皮膚がめくれた程度だ。黒衣の巨人は気に止めてもいない。そして、再度バズーカを構える。大きな銃口がこちらを向く。
「だからバズーカは止めろって言ってんだろ!」
発射を阻止すべく、今度は腕を狙って二連射。一発は逸れたものの、もう一発は肘部分に命中。さすがに腕一本では衝撃には耐え切れず、体勢を崩す。しかし、本当ならば肘から先がブッ飛んでもいいはず。奴の強靭さを考えても、骨が折れたり関節が外れたりくらいはしそうなものだ。だが、奴の分厚い黒衣に防弾性があるらしく、服が裂けた事以 
 外に目立ったダメージは無い。
 ならば銃弾の雨を降らせて、裸にして仕留めてやろうか?
 …だめだ、そんなことができるほど弾薬は残っていない。

 だったら現時点で黒衣で守られていない頭、胸、腹、右肘を狙うか?…それもだめだ。ある程度距離をおけば狙いを定める前にバズーカを撃たれるし、距離を詰めれば今度はバズーカの砲身を棍棒のように使い、叩き潰そうとしてくる。そして、こんなことを長く続けていられるほど時間も体力もあろうはずも無い。何とかして一撃で仕留めないと…。
瞬間の思考の後、一つの考えが浮かぶ。あまりに馬鹿げた手段を導き出す自分の頭の悪さに腹が立つ。だが、他に手は思いつかない。…一か八かだ!

 振り下ろされたバズーカの砲身を避けたと同時に間合いを開ける。黒衣の巨人は当然のようにバズーカを構える。
 このタイミングだ!

 手塚は黒衣の巨人の斜め前の壁を撃った。弾けた壁が土つぶてになって黒衣の巨人の顔面を襲う。その一部は目に入り黒衣の巨人の視界を奪う。予想外の出来事に、右手に持ったバズーカへの注意がほんの少し疎かになった。その隙に一気に距離を詰める。しかし、視界を奪われた黒衣の巨人はそれに気付くことはない。一目散にバズーカに飛びつく。出来れば奪い取ってしまいたかったが、バズーカに掛けられた加重で手塚の接近に気付いた黒衣の巨人の握力がそれを許さなかった。それどころか手塚を振りほどこうとバズーカを振り回す始末だ。挙句にはそのまま引き金を引こうとしている。だが、それならばこちらにも、もう一つ考えがある。
「そんなに撃ちたければ撃たせてやる!喰らえよォ!」
 バズーカの砲身を強引に真上にかち上げて、手塚が自ら引き金を引いた。同時に黒衣の巨人の体を踏み台にしてそのバランスを崩すと共に、距離を開ける。
直後、天井が炸裂した。先ほど手塚の拳銃で生じた土つぶての何十倍もの量の土砂が黒衣の巨人を包み込む。
「ガアアアアアアァァァァ…!!」
 黒衣の巨人の断末魔とおぼしき声が止んだとき、もはやその姿は完全に土砂に埋もれていた。警戒のため、しばらく黒衣の巨人が埋まった土砂の山に向かって銃を構えていたが、やはり動きは無さそうなのでそれも解く。…結局、コイツの正体は分からなかったな。一度はその身を呈して、自分を助けてくれた存在…。もしかしたら自分は取り返しのつかないことをしたのかもしれない…。

 しかし、それも最早どうでもいいことだ。取り返しのつかないことなど、もう何度も繰り返してきている。そんなことより問題は、どうやってここから脱出するかだ。最初に落盤があった箇所を観察する。地上へとつながる道は完全に塞がってしまっている。無理をすれば掘り起こせなくも無さそうだが、かなりの時間と指の爪を2,3枚は覚悟しなくてはならないだろう。それよりもこの地下空間を探索したほうが有意義と言うものだ。もしかしたら、別の出入り口があるかもしれないし、こんな空間があること自体、よく考えればありえないことなのだ。即ち、この空間には何らかの秘密があると思ってほぼ間違い無いだろう。
 秘密と出口を見付けるため、捜索を再開する。落盤があっても照明が死ななかったのは幸運だった。

 …が、何なんだ、この複雑さは?!壁があって通路があるのか、通路があって壁かあるのか、それすらも分からなくなる。何処の角をどう曲がってもさっき見たような光景だし、だからと言って意図的に元の場所に戻るのも難しい。大体人間は、90°以外の角度の曲がり角では方向感覚がおかしくなるものなんだ。しかも、最初の時点で「右手の法則」を使うのを忘れたため、この手ももう使えない。

 もともとこの法則は、迷路が複数の壁で構成されていたり、階層が分かれていたりすると使えない法則なのだ。たまに通路同士が扉で区切られていたりすると、その向こうには大抵、ハンター・Iがいる。逃げられるときは逃げているが、それでも我が身を守るために発砲することもある。時間も体力も気力も、そして弾薬も徐々に削られていく。それと引き換えに手に入れたものといえば、この地下空間の存在意義を知るためのわずかな手掛かり。

 所々に保存食料や飲料水、固形燃料などの生活物資が積まれているのだ。
 即ちこの空間は何者かが「生活」を営むために存在している。
 なぜ、こんなところに住まなければならないかは…、まぁ、よりどころの無い事情があるのだろう。


棒
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