クラス373/TGV-TMST 「ユーロスターe300」 

British Rail Class 373 'Eurostar e300' / SNCF TGV-TMST 'TransManche Super Train'


新しくユーロスターe300として生まれ変わったクラス373。新しい塗装が施され、内装も一新された。
(撮影:ロンドン・セント・パンクラス駅、London St Pancras Station)

●基本データ

デビュー年 1993年
製造会社 旧GEC-アルストム(Alsthom)、現アルストム(Alstom)
営業最高速度 300km/h
運行会社 ユーロスター(Eurostar)
運行区間 定期運行路線
●ロンドン・セント・パンクラス(London St Pancras)〜ブリュッセル南(Bruxelles-Midi)
●ロンドン・セント・パンクラス〜パリ北(Paris Nord)
●ロンドン・セント・パンクラス〜マルヌ・ラ・ヴァレ・シェシー(Marne-la-Vallee-Chessy)
●ロンドン・セント・パンクラス〜マルセイユ・サン・シャルル(Marseilles-Saint-Charles)

冬季限定スキー列車
●ロンドン・セント・パンクラス(London St Pancras)〜ボーグ・サン・モリス(Bourg-Saint-Mourice)
●ロンドン・セント・パンクラス〜エム・ラ・プランニュ(Aime-la-Plagne)
●ロンドン・セント・パンクラス〜ムティエ(Moutiers)
編成詳細

373/1 スリー・キャピタル半編成 (機関車+連接客車9連)x62本 
373/2 ノース・オブ・ロンドン半編成 (機関車+連接客車7連)x14本
予備機関車一両


●TGVをベースにしたイギリス念願の高速車両

 GECアルストムが開発したユーロスター用の高速列車。フランスのTGVを元にイギリスと英仏海峡トンネル内での走行を考慮した設計となっている。イギリスではクラス373と区分されるがフランスでは373000型、またはTGV-TMST(TransManche Super Train、英仏海峡横断超特急の意)。2014年から改装された編成はユーロスターe300とも呼ばれている。登場時はユーロスターの顔として活躍していたが、現在その座はクラス374に譲っている。

三ヶ国対応のハイスペック高速列車
 イギリスのドーバーとフランスのカレーを結ぶ英仏海峡トンネルの工事が1987年に着手され、同時にイギリス、フランスとベルギーの各国鉄の間で新型高速列車の設計についての検討が始まった。これは1987年末に国鉄三社によって組成されたインターナショナル・プロジェクト・グループ(International Project Group)によって行われ、最終的にフランスのTGVを元にしたデザインが採用された。

 1989年12月にはTGV系列を製造元であるGECアルストム社に20両編成x30本の製造契約が授与された。後述してあるが各20両編成は正式には機関車1機と客車9両の半編成を二つ連結した構成となっている。後に8本の追加発注が行われ、内訳は20両編成が追加で1本、更には短編成化された16両編成x7本だった。これらはイギリスの地方都市とパリ、そしてブリュッセルを結ぶ「ノース・オブ・ロンドン(North of London、ロンドンより北の意)」用に製造された。

 クラス373の製造は様々なところに分担され機関車はGECアルストムの北東フランスのベルフォート(Belfort)車両製造所、動力台車付きの客車は同じく北東フランスのデ・ディートリッヒ社(De Dietrich)が製造。一方一等客車はベルギーのボンバルディアのユーロレール工場(Eurorail)で、二等客車とビュッフェ車はビスケー湾に位置するエイトル(Aytre)のGECアルストムの工場で製造。内装はエイトルとイギリスのワッシュウッド・ヒース工場(Washwood Heath)で行われた。

 最終的には20連の「スリー・キャピタル(Three Capitals、三首都の意)」編成が31本製造され、内訳はフランス国鉄に16本、ベルギー国鉄に4本、イギリス国鉄に11本。更に16連の「ノース・オブ・ロンドン」編成の7本がイギリス国鉄によって納入された。同社は1994年から民営化が始まり、イギリス国鉄の保有編成はロンドン・コンチネンタル鉄道(London and Continental Railways)に売却され子会社であるユーロスター(UK)社が保有していた。

ユーロスターの運行開始、在来線乗り入れ時代
 1994年11月14日、いよいよユーロスターの営業開始となった。しかし開業当初走行できる高速新線はフランス北部の高速新線であるLGV北線しか開業していなかった。1997年12月にはベルギー内の高速新線、HSL1が完成したが、イギリスではドーバーのトンネル出口から在来線に乗り込みロンドンのターミナルであるウォータールー駅まで第三軌条直流750Vの在来線を走行しておりロンドン〜パリの所要時間は3時間弱だった。

 2003年11月にはイギリス国内初の高速新線であるHS1(当時はCTRL、Channel Tunnel Rail Linkと呼ばれていた)の部分開業が行われた。これによりケント州のフォーカム・ジャンクション(Fawkham Junction)から英仏海峡トンネルのイギリス側が高速新線で結ばれ所要時間が20分短縮された。

 デビューから10年経った2004年には内装のリニューアルが行われ、モケットなどがよりシックなグレー調のものに更新された。

セント・パンクラスへの移動、高速新線の完成
 2007年11月14日には待望のHS1全線開業が行われ、ロンドンのターミナルも大規模改築を経たセント・パンクラス・インターナショナル駅に移転した。これによりイギリス国内での在来線乗り入れの必要がなくなったので第三軌条用の集電機器は取り外された。

 クラス373の乗り入れ先はパリとブリュッセルだけではない。ディズニーランド・パリの最寄り駅であるマルヌ・ラ・ヴァレー・シェシー駅までの直通列車が設定されている他、南仏のマルセイユ、更に冬季にはスキー用臨時列車としてアルプスのスキーリゾートの最寄り駅まで乗り入れる。

ノース・オブ・ロンドン編成の東海岸本線での活躍
 バーミンガムやマンチェスターなどイギリスの地方都市とヨーロッパ大陸を結ぶ「リージョナル・ユーロスター(Regional Eurostar、地方ユーロスターの意)」計画は国鉄民営化の波にのまれ断念され、そのために製造されたクラス373/2ことノース・オブ・ロンドン編成は行き場をなくしたかに思えた。しかし2000年に東海岸本線のフランチャイズを託されていたグレート・ノース・イースタン鉄道(GNER)が混雑解消用に5編成をリースすることに決定。クラス373/2で運行される列車は「ホワイト・ローズ」と名付けられ、ロンドンとリーズ、そしてヨークを結ぶ列車を担当した。

 しかしながらクラス373/2の規格は在来線向けとは言えず運用にかなり制約があった。そもそもリーズとヨーク路線のみを担当したのも車両限界が大きすぎてニューキャッスル駅構内に入線できなかったことが要因だった。編成長も在来線車両の中では一番長く、途中駅のホーム長の関係で機関車に隣接する客車のドアは客扱いをしなかった。更にクラス373/2は膨大な電力を消費するという問題も抱えていた。当時の東海岸本線ロンドン近郊部分の変電所の電力不足によりラッシュ時には同系列を運行できず、閑散期でも上下ともに一度に一本ずつしか走らせることができなかった。

 運用上の制約と高価な運用コストが原因で結局2005年にはリースが更新されず、これら5編成はユーロスターに返却された。

フランス国内のTGV運用
 フランス国鉄が保有していたスリー・キャピタル編成のうち3本は国内のTGV運用に回された。これらはTGV-PSETGVレゾなどと一緒にパリとリールを結ぶTGVとして運用された。当初はロンドン線で使用される編成と同様の外観だったが車両前面の黄色い警戒色がはがされ第三軌条用の集電シューが外された。2007年にはノース・オブ・ロンドン編成を6.5本(7両の半編成x13本)ユーロスターからリースし、パリから北への国内TGV運用に就いた。

 2014年10月にはTGV運用のクラス373は二階建てのTGVデュープレックスに置き換えられ、デビュー以来改装を一度も受けていなかったスリー・キャピタルの3編成は廃車となった。同年12月にはノース・オブ・ロンドン編成も運用を外れユーロスターに返却された。

クラス374の登場、その後の動向
 2015年11月からは後継のクラス374ことユーロスターe320が営業運転を開始し、クラス373を補完する形で導入された。花形のロンドン〜パリ間ノンストップ便の運用は譲ったものの、ブリュッセル線などで現在でも使用されている。同時期にはクラス373の大規模リニューアルも始まりクラス374と統一された新塗装が発表された。イタリアのピニンファリナ社が新内装のデザインを手掛けており2015年7月に初リニューアル編成が出場。残る編成も順次更新予定だ。

クラス373の仕様:乗り入れ先と長大トンネルに左右された複雑怪奇な車両
 スリー・キャピタル編成は機関車1機と連接客車9両を一つの半編成として扱い、通常運用ではそれらが二つ併結されて機関車2機と中間客車18両の20両編成で走っている。これは英仏海峡トンネル内で事故がおきた場合に乗客を一つの半編成に避難させ中間で切り離しを行い、片方の半編成だけ脱出できるように設計したからである。よって9両目と10両目の客車の間は連接台車ではなくそれぞれ別の台車を使用している。ノース・オブ・ロンドン編成も同様だが中間客車は各半編成につき7両。

 イギリス製の三相交流誘導電動機を搭載しており、機関車の他に隣接する客車の機関車寄りの台車が電動台車となっている。これはTGV-PSEにも見られる設計で加速度を向上するために採用された。交流25kV下での最大種強くは12.2MWだが第三軌条下では3.4MWしか出せなかった。営業最高速度は300km/hだが2003年7月には334.7km/hを記録し、当時のイギリス鉄道最高速度記録を更新した。

 全編成は三種電源に対応している。高速新線共通の交流25kV、ベルギー在来線の直流3000Vとイギリス在来線用の直流750V。イギリス南部は第三軌条方式で電化されており、クラス373も機関車の台車枠に集電シューが備わっていたが2007年のHS1開業に伴い撤去された。フランス国鉄所属のスリー・キャピタル編成のうち5本は四種電源対応で上記の他に南仏の直流1500Vの下でも走行でき、マルセイユ直通便と冬季スキー用臨時列車に充てられる。イギリスの第三軌条ネットワークでの試験走行時に誘導電動機と軌道回路の周波数が干渉する問題が挙がったが様々な調整の元解決した。

 搭載している保安装置は5種類:イギリス在来線用のAWSとTPWS、高速新線用のTVM430、フランスの在来線とセント・パンクラス駅行内のKVBとベルギー在来線用のTBL。TVM430は日本の新幹線で使用されているATCと同様に運転台に最高速度が表示される方式である。

(解説・撮影:秩父路号、2016年5月更新)

●ギャラリー


旧塗装のクラス373。写真の高速新線は2007年に開通した。
(撮影:レイナム駅付近、Rainham Station)


リニューアル前の普通車の車内。2+2列の非リクライニング座席。

リニューアル前のビュッフェカー。軽食や飲み物が手に入り、通貨はポンド・ユーロの両方が使用できる。


客車間の連絡通路の様子。荷物置き場も設置。

ユーロスター用ホームは低いのでステップが展開される。

第三軌条用集電シューが備わった機関車の台車。

中間客車間の連接台車。


機関車後方の客車の機関車寄りの台車は動力台車で機器も積んでいるため、着席数は少ない。
(撮影:ヴォクソール駅、Vauxhall Station)


2007年のセント・パンクラス駅移動までは第三軌条の在来線に乗り入れていた。
(撮影:ヴォクソール駅、Vauxhall Station)


旧塗装のビュッフェ車両の窓回りのデザインは他の車両と異なっている。
(撮影:サウス・ブロムリー駅付近)


フランス国鉄によって国内TGV運用に就いていたスリー・キャピタル編成。イギリスでの運行に必要だった黄色の警戒色が剥がされ他のTGVと同じく銀色の塗装に統一された。
(撮影:サン・ドニ駅、Gare de Saint Denis)


塗装更新の途中のスリー・キャピタル編成。
(撮影:サン・ドニ駅、Gare de Saint Denis)


同じくフランス国内TGVに運用されるためフランス国鉄にリースされたノース・オブ・ロンドン編成。これらは黄色い塗装のまま運用された。
(撮影:サン・ドニ駅、Gare de Saint Denis)


TGV運用のクラス373は客車のデザインにも手が加えられた。写真は普通客車。
(撮影:パリ北駅、Paris Gare de Nord)


こちらは一等客車の様子。
(撮影:パリ北駅、Paris Gare de Nord)

●参考文献・ウェブページ

・「Traction Recognition, Third Edition」 (Ian Allan Publishing) ISBN 978-0-7110-3792-2
Kent Rail: Class 373 Trans Manche Super Train
TGV Web: Eurostar
Wikipedia: British Rail Class 373
The Guardian: Lack of power cuts rail service
Eurostar refurbishment behind schedule
Eurostar shows off updated Class 373 interior

↑ PAGE TOP