クラス374 「ユーロスターe320」
British Rail Class 374 'Eurostar e320'
ユーロスターの新型電車。ヴェラロ・シリーズ独特の顔をベースに同社のコーポレートカラーである紺と黄色の塗装にまとめ上げた。
(撮影:パリ北駅、Paris Gare du Nord)
●基本データ
デビュー年 | 2015年 |
製造会社 | シーメンス(Siemens) |
営業最高速度 | 320km/h |
運行会社 | ユーロスター(Eurostar) |
運行区間 | ロンドン・セント・パンクラス(London St Pancras)〜パリ北(Paris Nord) |
編成詳細 |
クラス374 8連(半編成)x34本 |
●フランス以遠の各国への乗り入れを実現化した新型高速車両
導入背景、入札のトラブル
1994年の英仏海峡トンネルの開業以来ロンドンとパリ、そしてブリュッセルの三首都を結ぶ花形の「ユーロスター」はクラス373に託されていた。しかし15年以上も高速走行を連日行ってきたせいで老朽化が進み、一部編成の置き換え用にユーロスターは2009年に新造の高速列車10編成の入札を発表。しかし新車導入の動機は他これだけではなかった。ロンドンとアムステルダムやフランクフルトの間は航空機のドル箱路線であり、高速鉄道でも競争できる圏内に位置する。直通列車を新設すれば市場開拓が見込めるがオランダやドイツの電源システムに既存のクラス373が対応していなかった。更に2010年2月にはドイツ国鉄がフランクフルトからロンドンへの直行便を走らせる意思表明をし、今まで英仏海峡トンネルを通る旅客列車の市場を独占していたユーロスターとしては将来の競争相手にハード面で負けないよう準備する意味合いもあった。
2010年10月にはシーメンスへの契約授与が発表。今までフランス国鉄とその子会社はアルストム製の高速列車を使用していただけに意外な選択となった(ユーロスターの株式の過半数はフランス国鉄が保有)。今までの動力集中方式のTGV系列とは異なり、ICE3の発展型であるVelaro D型をベースにした設計が選ばれた。敗れたアルストムはシーメンスの列車では英仏海峡トンネルの安全規制を損ねると声明。更に入札とその審査に問題があるとしてユーロスターを告訴したものの根拠がないと判断され却下された。
製造と試験走行、各国での認可
新造車両はイギリスでの形式名はクラス374、ユーロスター内でのブランド名は最高時速の320km/hにちなんで「ユーロスターe320」と呼ばれた。シーメンスのクレフェルト工場で製造され、初編成が2013年に落成。当初の予定では2014年中に営業運転を開始する予定だったがベースモデルだったヴェラロD型の運行認可が遅れたためにクラス374の承認もずれ込んだ。2014年11月にはロンドンで初編成が正式にユーロスターに引き渡され、同時に追加で7編成を発注した旨を発表。
2013年4月にはシーメンスのヴィルデンラート試験船で走行試験が始まり、翌年の夏にはリール付近のLGV北線で高速走行試験が行われた。2015年10月にはフランスでの営業運転が認可され、2016年1月にベルギー内での走行が認可された。
運用の開始、将来の見通し
営業運転は2015年11月からひっそりと始まり、当時ベルギー内での運行認可が降りていなかったことからロンドン〜パリ運用に充てられた。2016年4月には当初発注された10編成が納入され、順次営業運転に入っておりその影響でクラス373の余剰編成が廃車になりつつある。追加発注の7編成は2018年3月までに納入予定だ。
2016年4月下旬からはオランダでの走行試験が始まり、同国内での運行許可を得た後2017年12月にロンドン〜アムステルダム線を開設する予定。他にもフランクフルトやケルン、更に南仏への直行便を将来的に新設する見込みだ。
クラス374の仕様
正式には先頭制御車1両と中間車7両の計8両で一つの「半編成」を構築しており、通常営業時にはこれらを2つつなげて16両編成で運用される。これはクラス373でも見られたハーフセット(Half-set、半編成)の仕様で海峡トンネル内で事件があった場合に乗客を片方の半編成に乗せ中間で切り離しを行い脱出するための安全基準を満たすためである。25メートル級の車両で16両編成の全長は398メートル。
最高時速は名前の通り320km/h。1M1T構成で8両の半編成の構成はMc-T-M-T-T-M-T-M。プレミア・クラス3両、普通車4両、普通車兼ビュッフェ車が1両という内訳。最大着席数は902人。
フランスとベルギー(直流3kV)、オランダ(直流1.5kV)、ドイツ(交流15kV)の在来線と高速新線(交流25kV)への乗り入れが可能でパンタグラフも16両編成に8つ備わっている。保安システムも上記4ヵ国の在来線のものに加えセント・パンクラス駅構内のKVB、高速新線のTVMとERTMSの7種類に対応している。
(解説・撮影:秩父路号、2016年5月更新)
●ギャラリー
ユーロスターの二世代の車両が並ぶ。
(撮影:ロンドン・セント・パンクラス駅、London St Pancras Station)
●参考文献・ウェブページ
・「Traction Recognition, Third Edition」 (Ian Allan Publishing) ISBN 978-0-7110-3792-2・Kent Rail: Siemens Class e320
・Siemens Mobility: Eurostar e320 high-speed trains
・Wikipedia: British Rail Class 374
・IRJ: Eurostar Velaro on test in the Netherlands