○エーゲ文明の発掘

 ところで唯一、このエーゲ文明について語っているのが前8世紀の詩人・ホメロスによる「イーリアス」でした。

 イーリアスは、小アジア(トルコ周辺)に当時あったトロイ(言語や方言によってトロイア、トロヤ、イリオスとも)と、アカイア人による連合のギリシャとの戦争を描いています。簡単に説明すると、まず、ミケーネ国王アガメムノンの弟の后ヘレネが、トロイの王子に奪われたため、それを取り戻すため戦争が起きます。

 しかし、トロイは10年たっても落ちません。そこで、ギリシャ軍は一計を巡らし、全軍がギリシャに撤退したように見せかけて、戦場に大きな木馬を置いていきます。
 トロイはこれは戦利品だと思い、城内にこれを引き入れます。ところが、この中にはギリシャ軍の別働隊が入っていたのでした。こうして、トロイは大混乱に陥り、ギリシャ軍がなだれ込み、トロイは滅亡したというトロイヤ戦争にまつわる話です。

 長い間、これは「伝説」「作り話」として人々に読み継がれてきました。しかし、「これは事実だ!」と考えたのがドイツのハインリッヒ・シュリーマン(1822〜1890年)です。彼は幼い頃にトロイア戦争についての絵本を読んで以来、ずっとこの文明の存在を確認することを夢見ました。もちろん、多くの人は彼を笑います。

 しかし、彼は必死で働き、ロシアで貿易商として成功するなど発掘の資金を貯めます。そして、50歳になって仕事を辞め、トロイ、さらにギリシャ本土でミケーネの発掘に成功します。こうして、エーゲ海に文明があったことが確認され、その成功を受けて、イギリスのエヴァンスはクレタ文明を発見します。彼は、線文字について明らかにしました。

 ところが近年、そんなシュリーマンの功績が逆の意味で見直されています。というのも、シュリーマンの発掘の記録では矛盾が多く、図と文章で書いていることが違っていたり、また自分の父親についても、あるところでは父のおかげで発掘に興味ができたというのに対し、別の場所では父親は何もしてくれなかったと語っていたり・・・。さらに、彼の書簡を見る限りトロヤ文明発掘の夢について語ったのは大人になってからで、それまでは商売の楽しさについて語るものが多かったとか。

 そして、これはシュリーマンに限らず他の学者もそうだったのですが、発掘の方法が宝探し状態で、非常に粗く、遺跡破壊の非難を受けています。もちろん、この遺跡破壊というのは今も重要な問題で、発掘時には上手に掘れたとしても、その後の保存が難しくて崩壊したり、盗掘にあったりと、結構大変なのです。

 また、彼が発掘したのはトロイではありますが、後代のものでした。と言うのも、トロイは破壊と再建を繰り返しており、遺跡が重なっているのです。順番に第1都市とか、第3層などと言われて分類されています。このうちシュリーマンが発見したのは上層部で、ホメロスのトロヤ遺跡は第7層であることが解っています。



イリオス遺跡の前に置かれた木馬

イリオス遺跡

○シュリーマンと日本

 ところで、シュリーマンは日本にも旅行に来ました。
 トロイ発掘の6年前である1865(慶応元)年、世界旅行の途中で清に立ち寄ったあと、幕末の日本を訪問し、江戸などに滞在しています。麻布にある善福寺(アメリカ領事館として使用)に宿泊した彼は、この時、短期間ながら多くのことを観察し、その日記は現在、「シュリーマン旅行記清国・日本」と言うタイトルで出版されています。興味のある方は、こちら で購入出来ます。価格は840円(税込)。そんなわけで、全く遠い国の人物というわけではないんですね。

 また、日本に好意的な評価をしているのに対し、清に対してはその正反対の評価。
 シュリーマンに限らず、これは当時の多くのヨーロッパ人の見方を象徴的に表し、その後の歴史に影響を与えたのかもしれません。あと、彼は当時の日本の葬式にも参列し、喪服が白色であったと書き残しています。こんな所から、今の黒の喪服の伝統というのは意外と短いと言うことが解ります。

 そこで!
 ごめん、全然古代ギリシャと関係がないのですが、いつから喪服が黒くなったのかを調べてみますと、どうやら日清戦争や日露戦争で多くの戦死者がでて、葬儀の参列が多くなってしまったために、喪服の出番が増えてしまった! そこで汚れが目立たない黒にしよう、と華族の間で普及していきました。大正4年には、宮中に参内する時には基本的に黒喪服、と定められています。

 そして民衆の間でも、第2次世界大戦が終わると「汚れが目立つ・・・」ということで黒喪服が普及していくのです。
 というわけで、なんと古代ギリシャから日本の喪服が見えてくるのでした。喪服については、こちら がお詳しいです。

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