第十六話 リミッター作動!!

 原付の法定速度は三十キロである。

 乗り始めたころは三十キロっていうのは、なんて速度なんだ、これだけでれば十分という感覚だったが、乗りなれてくると、スピードに対する耐性もついてくる。ブレーキ操作にも慣れてくるので、自然とグリップを回して速度をだすようになってくる。公道を走るのには三十キロでは全然もの足りない。


 かえって三十キロでノロノロ走っているほうが危険ではないかと思えるようになった。事実、自動車が原付を簡単においこせるような、幅に余裕がある道路ならともかく、追い越すスペースが十分にない道路などでは、原付もある程度速度をあげて走ったほうが安全ではないか? 車が無理に追い越しをしようとしてこれば、こちらが危ないのだ。自動車と接触したら原付はひとたまりもない・・・。


 速度をグングンだすようになって気づいたことがある。速度計や燃料計といった計器類が集まっている箇所(自動車だとインパネというが、原付でもそうなんだろうか?)に「SPEED」という表示がある。これは速度が三十キロを越えると点灯するようになる。つまり、法定速度を越えてるよというサインなのだ・・・。


 そんな機能がついていながら、原付の速度計の表示は六十キロまである。法定速度の倍の速度である。あくまで、ランプの点灯は法定速度オーバーの警告だけで、速度はもっとでるのだ。自動車の速度計をみても、百八十キロとか、実際にそこまで出すことはないだろうという表示が平気でついているわけだし・・・(走らせようと思えば出るんだろうけど)。


 自動車の百八十キロ表示は実際の道路状況を鑑みれば非現実的ではあるが、原付の六十キロ表示は現実的である。ある程度なれてこれば六十キロ走行が当たり前になってくる(その人の性格にもよると思うが)。


 だが、六十キロの壁を越えることができないのだ・・・。速度計の表示は六十キロ地点までしかないが、六十キロをこえれば、針はふりきれるハズである。だが、針はふりきれない。六十キロ地点以上、針はすすまない・・・つまり振り切れるような構造になっていないのでは? と思ったが、下り坂などを走行する場合、針は六十キロ地点をこえることがある。


この謎を友人にぶつけてみると
「リミッターだよ」
という答えがかえってきた。そう、六十キロまで速度をだすと、それ以上は速度がでないように機体が速度の制御をしてしまうのだ。その友人はリミッターを取り外している(リミッターは取り外しが可能なのである)ため、八十から九十キロくらいだしているようだ。


 バイト先の正社員の人もリミッターを外した原付に乗っていたらしい。リミッターを外すというのは容易かつメジャーな改造のようである。だが、バイト先の正社員の人は今は丸くなってしまったのか、



「原付のような小さい乗り物で速度を出しすぎると怖い」
と飼いならされた家畜のような発言をしていた。よーし、私もリミッター外そうかな・・・と父に話をふると(こっそり外せばいいのになあと思われるかもしれないが、かつてスポーツカーに乗り、今も自動車関係の現場で働いている父は、原付に乗るようになり、原動機付の乗り物に関心を持ち始めた私にとっては良き話し相手であり、アドバイザーであったのだ)。

「警察につかまたっとき、免許なくなるぞ。」
という答えが返ってきた。父の話では法定速度を三十キロ越えるというのは速度違反の中でもヒドイ違反になるという。


 速度違反と一口にいっても、どれだけ速度オーバーしているかで減点の率は違う。調べてみたところによると、前科などにもよって複雑ではあるが、五十キロオーバーで減点十二点以上、四十キロ、三十キロ以上では六点。二十五キロ以上なら三点となっている。免許証は十五点の減点をくらうと取り消しになってしまうが、六点から十四点の減点を受けても、免許停止・・・取り消しではないがしばらくの間、車に乗ることができなくなってしまうのだ・・・。たまに免許停止期間中(免停というが)に車にのったことがバレて捕まったりするのを、ニュース等でみたことがあるのではないだろうか?


 また、二十五キロ以上の、三点の減点というのは、軽微な減点に該当し、無事故・無違反の期間が二年以上あった場合、減点されてから三ヶ月間、無事故・無違反で過ごせれば三点の減点は取り消しにされるのである。


 そう、リミッターが作動して六十キロオーバー(法定速度三十キロオーバー)にならないのはこのような理由があったのだ。六十キロ、ギリギリ手前で速度の上昇がとまれば、軽微な違反で、六十キロをこえると免停というのは大きな違いだ。警告的な意味しかない「SPEED」表示に対して、リミッターは強制力をもって操縦者を法から守ってくれているのだ。法廷速度で道路を走るのは大変だが、速度超過がすぎて捕まっては、もっと大変という図らいなのだろう。


 私は結局、リミッターを外すことはしなかった。メンドウくさいという理由もあったかもしれないが、捕まった時のことを考えるともっと大変だと思ったからだ・・・。


 免許取り消しなんかになって、もう一度自動車学校にいくのはゴメンだし・・・。



棒