第十八話 四輪自動車派・バンカー(原付ライダー列伝1−バンカー伝1)

  大学三年の夏・・・二輪免許をとろうと、教習所を探したり、原付に乗ってバイクの練習をしたりとコソコソ動きはじめていた。だが、それはある意味、パフォーマンスだったのかもしれない。

 本気で免許をとるつもりはない、かといって免許をとると吼えているだけではかっこ悪い。そこで、免許をとりたいが今は金がないという弁明の一環として、バイトをむやみにやったり(この頃は午後一時出社の十時退社だった。しかも、忙しいときには電話をもらって緊急にでるようなこともしていた。ただ、中国旅行にいくということもあり、金は本当に必要だったのだが)、練習と称して原付に乗っていたりしたのかもしれない。


 前の話・・・第十七話にでてきた、友人・・・いつまでも友人と呼んでいると、別の友人がでてきたときに混乱を招くので、「文遠」とよばせてもらう。文遠というのは三国志の猛将、張遼の字(あざな)、文遠よりきている。かつて、私のホームページで彼のトト(サッカーくじ)の予想コーナーをつくろうという企画があったときに、彼のハンドルネームにしようと思ったものが「文遠」である。


 その文遠と私の共通の友人・・・彼は「ナニワ金融道」が好きなので「バンカー(銀行員)」と呼ばせてもらう・・・と私は、よく三人もしくは二人で遊んでいた。思い出してみれば三人で遊ぶというのはほとんどなく、私と文遠、私とバンカー、文遠とバンカーで遊ぶことが多かったように思う。


 「遊ぶ」といっても昼間にどっかにいくということは、バンカーとは、ほとんどなかった。私は当時、バイトが忙しかったので昼間遊べることはほとんどなかった。もっとも、昼間会ってどこに行くんだ? というレベルだった。文遠は夜出歩くことを嫌っていたので、もっぱら昼間にあっていた。三人の生活パターンが異なるので、結局、三人で遊ぶというのができなかったのではないかと思う。


 バイトが終わり、家に帰って食事をしている時間くらいになるとバンカーから電話がかかってくる。夜の遊びの誘いだ。私は食事を終える時刻を告げる。あとは、バンカーが私の食事が終わる時間くらいに車を私の家の近くに配車して、到着の報告の電話を私の携帯にかけてくるのを待つだけである。


 当時、バンカーは自分の車を持っていなかった。学生だから持っていなくて当然なのだが・・・。しかし、バンカーは自動車の運転をしたいので、親が仕事から帰ってから車を借りて運転していたのだ(そのため夜にでかけることになる)。だが、一人で走ってもつまらないので私を道連れにしたのだ。


 私は人の車に乗るのが好きである。当時は運転にまったく自信がなかったので、自分で運転しようという気にはなれなかったので運転することには興味はなかった。


 では、他人の車に乗る楽しさは何か? それは相手の個性を感じることができるからだ。BGMに何を流しているのか、CDなのかMDなのか、ラジオなのか? アーティストは?  小物類やイスの敷物は何か、臭い消しには何をつかっているか等・・・。後、本人の車の運転技術をみるというのも楽しい。いうなれば、友人の車にのるというのは、友人の部屋にはいったような気分なのである。


 バンカーの車に私がのると、彼は走り出す。


 目的もなく闇雲に走るときのほうが多い(車を運転することが目的なので)が、時に「中田島砂丘(浜松市にある砂丘。アカウミガメの産卵地として有名)に行こう」とか「舘山寺(浜松市の観光スポット。確かこのときは舘山寺にある、かわった形のラブホテルをみにいこうという話だった。このとき私はつかれきっていて半分寝ていたのだが)にいこう」とか「豊橋(愛知県東部の市)にいこう」といった漠然とした目的をもってはしることがあった。そこにいって何をするわけでもなく、到着したら後は帰るだけなのだが、それが楽しかった。


 助手席に座って走ったことのない道を走っていると何か冒険をしているような気分になってくる(あと、クーラーがガンガンにきいているから涼しいし)。多分・・・自転車にしかのれない一年前だったらこんな無為なことにつきあったりはしなかったかもしれない・・・。


 だが、私の心は一年のうちに変化をとげていた。かつて友人の車で四日市(三重県の都市。静岡県からだと片道200キロ以上あるのではないか)へいった非常に楽しい経験や、オートバイに乗ってみたいという妄想、原付でなら、ここまで走ってこるのではないかという、期待・・・それらが私の心に影響を与えていたのであろう。さすがに自転車しか乗れなかったころに国道一号線を走り抜けたいとか、他県までいきたいとは思わないだろう。自転車でいくとなると冒険というよりは苦行である。


 バンカーと車に乗って闇雲に走りつつ、大学の話や最近ハマっていることなど、色々な話をした。そういえば、この頃、よくカラオケにいったので、好きなシンガーの話とかもした。バンカーはやたらとCDを持っていて、日替わりで車のオーディオで再生させていた。バイクの話もした。文遠がいて三人でいるときにもバイクの話をしたような気がする。


 バンカーにもバイクをすすめたが、バンカーの回答は、今は車が欲しいし、バイクの免許を取っても金の無駄になるだけじゃないか・・・という一般的な回答であった。文遠と私は
「所詮、ヤツは飼いならされた動物よ。」
とバンカーのことを冗談半分で評していた。車とバイクの違い・・・車は現実の生活に拘束されているが、バイクはそうではない、現実から抜け出した・・・一つの夢なのだ。


 だが、このバンカーという男、とんでもない伏兵だったのだ・・・。

棒