クラス185「デジロ」
British Rail Class 185 'Desiro'
イングランド北部の東西の都市間を結ぶ重役を負うクラス185。
(撮影:イースト・ガーフォース駅、East Garforth Station)
●基本データ
デビュー年 | 2006年 |
最高速度 | 160km/h |
製造会社 | シーメンス |
運行会社 | ファースト・トランスペナイン・エクスプレス(First TransPennine Express, TPE) ノーザン(Northern, NT) |
運行区間 | ノース・トランスペナイン系統(東海岸本線経由, TPE) ●ニューキャッスル・セントラル(Newcastle Central)、ミドルズバラ(Middlesbrough)、スカーバラ(Scarborough)、ハル(Hull)〜リーズ(Leeds)〜マンチェスター・ピカデリー(Manchester Piccadilly)〜マンチェスター空港(Manchester Airport) ●ニューキャッスル・セントラル(Newcastle Central)、ミドルズバラ(Middlesbrough)、スカーバラ(Scarborough)、ハル(Hull)〜リーズ(Leeds)〜マンチェスター・ピカデリー(Manchester Piccadilly)〜リバプール・ライム・ストリート(Liverpool Lime Street) サウス・トランスペナイン系統(TPE) ●クリーソープス(Cleethorpes)〜マンチェスター・ピカデリー〜マンチェスター空港 トランスペナイン・ノース・ウェスト系統(西海岸本線経由, TPE) ●マンチェスター空港〜マンチェスター・ピカデリー〜エジンバラ・ウェイバリー(Edinburgh Waverley)、グラスゴー・セントラル(Glasgow Central) トランスペナイン・ノース・ウェスト系統(西海岸本線経由, NT) ●マンチェスター空港〜マンチェスター・ピカデリー〜ウィンダミア(Windermere) ●マンチェスター空港〜マンチェスター・ピカデリー〜バロー・イン・ファーネス(Barrow-in-Furness) |
編成詳細 |
クラス185 3連x51本 |
●イギリス北部の山脈を駆け巡るハイパワーディーゼル車
導入背景と初期の運用
2003年7月にイングランド北部の都市間速達列車をローカル列車から経営分離し、別フランチャイズに構築した「トランスペナイン・エクスプレス」の契約がTPEに授与された。今までの長距離列車はクラス158と156を中心とした車両が使用されていたが輸送力増強のために3連x56本の新型気動車の製造契約を発表(後に政府の介入により51本に減らされた)。様々な会社が入札したものの、2003年8月にシーメンスが選ばれた。2006年には落成した編成がイギリスに運搬されはじめ、同年3月に営業運転を開始。2007年1月には全51編成が運用に入った。
高評価と高性能が生む悩みのタネ
クラス158を置き換える形で運用に入ったものの、旧型車両よりも重量が各段に増加し線路を痛める事が懸念された。幾つかの線区ではクラス158以下の速度制限に縛られた。ノース・トランスペナイン系統のセルビー〜ハル間では重量過多で最高速度が120km/hに制限され、頻繁にクラス170が代用する。加減速性能が良好なので時刻表通りに運行するのに支障はないが、逆にいえば高速化に失敗した。
新車の設備は乗客に好評だったそれが仇となり、年々利用者数は増加。置き換えたクラス158の3両編成よりも座席数が少ないため立ち客の増加し、それどころ近年では多客期に乗客が漏れる事も珍しくない。導入当初から懸念されていた輸送量の少なさだが、2009年にイギリス北西の広域路線電化計画が発表された。2013年12月にマンチェスター・ピカデリー〜リバプール・ライム・ストリート線のマンチェスター〜ニュートン・ル・ウィローズ間の電化完了に伴いクラス350/4電車が導入され、マンチェスター〜スコットランド間のを運行するクラス185を部分的に置き換えた。余剰になった編成は他路線での輸送力増強に使用されているが相変わらず混雑は解消されずにいる。
2016年4月からウィンダミア、バロー・イン・ファーネス〜マンチェスター空港間の路線がTPEからアリーヴァが保有するノーザン(NT)に移管し、同時にそれらの路線で運用されていたクラス185x4本が同時に転属した。
クラス185の仕様
同系列はカミンス(Cummins)製のエンジンを積んでおり、フォイト(Voith)社の流体式動力伝達機関を採用。一両あたりの定格出力は560kW(2100rpm)で、先代のクラス158の260kWと比べるとかなりのハイパワーである(*1)。これにより加減速性能と最高速度が向上したが、重いエンジンや空調設備を備えているため一両あたり56トンに重量が増えてしまった。クラス158の38トンと比較すると相当な重量増加(*2)で、おかげで走行時の騒音がかなり大きい。
低燃費が重要視されるこのご時世の中、運行プログラムの中に組み込まれたのが「エコモード」である。エコモードでは加速時には通常通り全エンジンを使用するが、惰行・減速時に不要なエンジンを停止させる。シーメンスの試験走行のデータによると走行時間と乗り心地に影響を与えずに7%も燃費が向上するとの数値が出ていて、環境に優しい車両かと思いきや重量のせいで元々の燃費が悪く、焼け石に水状態である。
車内の設備は中・長距離都市間輸送向けの仕様で、普通席は2+2列のクロスシート、そして一等席は2+1列配置とゆったりしている。ドアは車両中間寄りの二枚扉にすることで乗客の昇降をスムーズにし、空調も完備。更に長距離運用では車内販売も実施され、非常に魅力的な車両となった。しかしその反面デッキの仕切りがなくドアが大きいので冬場には暖房が台無しで、現在は調整されたものの導入当時は空調が強すぎて車内が相当寒かったという。
*1-日本のディーゼル特急車両のと比較するとキハ187系が662kW(2100rpm)、そしてキハ261系が675kW(2100rpm)とパワーでは負けていない。
*2-同期のクラス170とクラス175は一両あたり約48トン。キハ187系とキハ261系が43トン。
(解説・撮影:秩父路号、2016年3月更新)
●ギャラリー
スカーバラ行きの列車を担当するクラス185。
(撮影:ヨーク駅、York Station)
普通席は長距離列車仕様の2+2列クロスシート。
ドイツで製造されたため、英仏海峡トンネルを経由してイギリス北部まで甲種回送された。牽引機関車はクラス67。
(撮影:サウス・ケントン駅付近、South Kenton Station)
●参考文献・ウェブページ
・「Traction Recognition, Third Edition」 (Ian Allan Publishing) ISBN 978-0-7110-3792-2・Wikipedia: Class 185
・Eversholt Rail: Class 185
・BBC: First profits to hit expectations
・Today's Railways, Issue 172 (April 2016): TPE looks to the future with new franchise