クラス390「ペンドリーノ」
British Rail Class 390 'Pendolino'
車体傾斜システムを搭載するクラス390。
(撮影:アディングストン駅、Uddingston Station)
●基本データ
デビュー年 | 2002年 |
最高速度 | 営業最高速度:200km/h 設計最高速度:225km/h |
製造会社 |
製造:アルストム(Alstom) 車体傾斜技術:フィアット鉄道部門(Fiat Ferroviaria) |
運行会社 | ヴァージン・トレインズ(Virgin Trains, VT) |
運行区間 | 西海岸本線(West Coast Main Line) 西海岸本線直通系統 ●ロンドン・ユーストン(London Euston)〜西海岸本線直通〜プレストン(Preston)〜グラスゴー・セントラル(Glasgow Central) ●ロンドン・ユーストン〜クルー(Crewe)〜マンチェスター・ピカデリー(Manchester Piccadilly) ●ロンドン・ユーストン〜ストーク・オン・トレント(Stoke-on-Trent)〜マンチェスター・ピカデリー ●ロンドン・ユーストン〜リバプール・ライム・ストリート(Liverpool Lime Street) バーミンガム系統 ●ロンドン・ユーストン〜バーミンガム・ニュー・ストリート(Birmingham New Street) ●ロンドン・ユーストン〜バーミンガム・ニュー・ストリート〜ウルヴァーハンプトン(Wolverhampton) ●ロンドン・ユーストン〜バーミンガム・ニュー・ストリート〜プレストン〜グラスゴー・セントラル ●ロンドン・ユーストン〜バーミンガム・ニュー・ストリート〜プレストン〜エジンバラ・ウェイバリー(Edinburgh Waverley) |
編成詳細 |
製造 |
●カーブの多い西海岸本線で華麗な走りを見せる車体傾斜式特急車両
アルストムの車体傾斜装置を搭載した高速車両シリーズである「ペンドリーノ」のイギリス向け車両。ロンドンとイングランド北西部の都市、そしてスコットランドのグラスゴーを結ぶ都市間列車を担当する。現在はヴァージン・トレインズが運行している。クラス390の導入背景
西海岸本線は首都ロンドンと第二都市バーミンガム、更にはマンチェスターやグラスゴーの都市圏を結ぶ大幹線で昔からの大動脈であった。イギリス国鉄時代に電化され、1990年代にはクラス86、87、そしてクラス90電気機関車に牽引されたマーク2やマーク3客車で構成された長距離列車が走っていた。国鉄民営化時にはヴァージン・アトランティック航空などを傘下に抱えるヴァージン・グループが西海岸本線の長距離列車の運行権を獲得し、その契約のうちに既存の旧型客車列車を置き換える事が義務付けられていた。これらは元々国鉄時代に「インテーシティ250(InterCity 250)」というプロジェクトの元新型列車に置き換えられるはずだったが、民営化の影響で計画は中止となった。
西海岸本線の北部、特にプレストンからグラスゴーまでの区間は山岳地帯を抜けるためカーブが多く、高速化には車体傾斜式車両が必要だと判断されクラス390がアルストムから発注された。クラス390の車体傾斜技術と車両製造には2000年にアルストムに買収されたフィアット鉄道部門(Fiat Ferroviaria)が深く関わった。車体と台車はフィアットが製造し、最終の組み立てはイギリスのウォッシュウッド・ヒース(Washwood Heath)にあったアルストム工場で行われた。車体傾斜技術に関しては日本で実用化された自然振り子方式とは異なり強制車体傾斜式を採用しており、最大8度まで傾斜させる。フィアットとアルストムが開発した他のペンドリーノ・シリーズは電気油圧シリンダーを採用しているが、クラス390ではより効率的で維持費が低い電気機械式のものを採用している。
クラス390は最高速度225km/hで営業運転をする予定だったが、それを可能にするための西海岸本線のインフラ整備のコストが肥大化。結果的に計画は様々な部分で削減され、現在でも営業最高速度は200km/hに留まっている。インターシティ225と同様にインフラが整っていないためポテンシャルを発揮できずにいる。
旧型客車列車を置き換える新型特急車
VTの発注内容は8連x34編成、9連x19編成の計53編成で、2002年7月から営業運転を開始した。最初はロンドン〜マンチェスター間の列車に充当され、徐々にリバプールやバーミンガムへの列車も担当するようになった。2004年にはスコットランドのグラスゴーまでの列車も担当するようになると同時にウェールズ北部のホリーヘッドまでの運用を開始。クルー〜ホリーヘッド間は非電化なのでクラス57ディーゼル機関車に牽引されていた。同年には8連の編成に一両追加で組み込まれ全編成が9連となった。2005年1月には客車列車はほぼ全て置き換えられた。
クラス390は車体の強度が向上されており、2007年2月23日の脱線事故でこれが証明された。グラスゴーからロンドンへ向かうクラス390がカンブリア州のグレイリグ(Grayrigg)にあるポイント通過時に脱線、そして線路の引いてある盛土から転倒。脱線時の速度は153km/hとされていたが、車体強度のため死者一人と怪我人88人に抑えられた。車両への損傷が大きかったためにその列車を担当していた390033編成は廃車。後の調査によると事故原因はポイントのメンテナンス不良にあり、車両のほうに非がなかった。
11連への延長、新造編成の導入
クラス390の導入を含む西海岸本線の近代化により利用客が増加し、それに対応するために英国運輸省がクラス390を106両を2008年に追加発注した。このうち44両は11連x4編成の新造編成に充てられ、残りの62両は既存の9連の編成のうち31本に普通車を2両ずつ組み込み11連に延長する計画だ(新造編成はキャパシティ増加の他にもグレイリグ事故で廃車になった編成を置き換える意味合いもあった)。この時イギリスにあったアルストムの工場は閉鎖されていたので新車両はイタリア北西のサヴィリアーノで製造された。新造編成は2011年7月にVTが受領。11連で製造されたものの、それを走らせるためのインフラが完全に整っていなかったので一時的に9連で導入された。2012年4月からはクラス390の11連への延長が始まり、その後8ヶ月にかけて既存の31編成と新造の3編成に2両組み込まれた。この際9連のままの編成はクラス390/0と称され、11連の編成はクラス390/1となった。
更なる利用客増加に対応するため、一等車4両普通車5両の構成だった9連の編成の一等車一両を普通車に改造する工事が実施されている。
英国がルーツとなったペンドリーノの開発背景
クラス390はアルストムとフィアットが開発したペンドリーノ(Pendolino)の一員であり、他にもイタリア向けに製造されたETR460やETR600などが存在する(ペンドリーノの名称は「振り子」を意味する「ペンデュラム(Pendulum)」を元にした)。しかしフィアットが専門としている車体傾斜技術の一部分はイギリスが開発したものだった。
1970年代に日本やフランスで高速鉄道が次々と開通していく中、英国鉄は列車の高速化を目指していた。しかし高速新線を建設する資金もなく、車両改良により速度向上を図る事になりAPT(Advanced Passenger Train, 先進旅客列車の意)と呼ばれる試作車を製造した。第二次試作車のAPT-Pは英国鉄が独自に開発した車体傾斜技術などを盛り込み、1981年から1984年の間に西海岸本線で試運転が行われた。しかし車体傾斜システムがまだ未熟だったためトラブルが多発、更には脱線事故まで起こしてしまい英国鉄はAPTの開発計画を完全に放棄。車体傾斜関連技術はフィアットに売却され、フィアットが独自開発した技術と合わせてペンドリーノ・シリーズが誕生した。イギリスにとってはなんとも皮肉な話である。
(解説・撮影:秩父路号、2016年4月更新)
●ギャラリー
9連のクラス390/0。現在一等車一両を普通車に改造する工事を受けている。
(撮影:サウス・ケントン駅、South Kenton Station)
2012年に11連に31編成が延長されたクラス390/1。写真は元々9連だった編成。
(撮影:サウス・ケントン駅付近、South Kenton Station)
2011年に新造された11連のクラス390/1。これらは運転席窓下にアルストムのロゴが入っている。
(撮影:ノース・ウェンブリー駅付近、North Wembley Station)
アルストムとVTの提携を記念するペンドリーノ・ラッピング車がクラス390/0の390004編成に施された。
(撮影:ノース・ウェンブリー駅付近、North Wembley Station)
中間車の様子。車体強度を保つために窓が他の車両と比較して小さい。
(撮影:グラスゴー中央駅、Glasgow Central Station)
普通車のは2+2列配置。車体傾斜装置を搭載し、車両限界が通常のものよりも小さくなければいけないため少々圧迫感がある。
一等車は2+1列配置。
一等車の二人掛け席の様子。後ろには荷物置き場がある。 |
一等車では時間帯により座席で食事ととる事ができる。写真はディナーの一例で牛肉のパイとルッコラのサラダ。 |
ドア付近の様子。車体とコントラストするようにゼブラ・ストライプの塗装が施されている。 (撮影:グラスゴー中央駅、Glasgow Central Station) |
車両前面のカバーの中には連結器が収納されていて、機関車牽引時などに使用される。開いたままの状態で走行する事も。 |
ヴァージン・トレインズが2016年でリヴァプールで開催される「国際ビジネス祭(International Festival for Business, IFB)」のスポンサーだったのでそのPR用に390151編成を特別ラッピングに包んだ。
(撮影:マンチェスター・ピカデリー駅、Manchester Piccadilly Station)
同じく390151編成の中間車。
(撮影:ロンドン・ユーストン駅、London Euston Station)
●参考文献・ウェブページ
・「Traction Recognition, Third Edition」 (Ian Allan Publishing) ISBN 978-0-7110-3792-2・Angel Trains: Class 390 - Virgin Trains West Coast
・Railway Technology: Class 390 Pendolino Tilting Trains, United Kingdom
・Wikipedia: British Rail Class 390