クラス465「ネットワーカー」
British Rail Class 465 'Networker'
様々な会社が製造に加わったクラス465。写真はABB製の465/1。現在は全編成が紺帯と水色ドアの塗装に統一されている。
(撮影:クラッパム・ハイ・ストリート駅、Clapham High Station)
●基本データ
デビュー年 | 1992年 |
最高速度 | 120km/h |
製造会社 | クラス465/0 イギリス国鉄鉄道工学部門ヨーク工場(BREL York) クラス465/1 ABBトランスポテーション(ABB Transportation)* クラス465/2 GECアルストム(GEC Alsthom)** クラス465/9 GECアルストム *BRELは1992年にABBトランスポテーションに買収されたのでクラス465/0と465/1は同じ工場で製造された。 **クラス465/2の製造はGECアルストムだが実際に受注したのは1989年に同社に買収されたメトロ・キャメル(Metro-Cammel)だった。 同項では465/0と465/1を「ABB編成」、465/2と465/9を「GEC編成」と呼称する。 |
運行会社 | サウスイースタン(Southeastern, SE) |
運行区間 |
ロンドン南東近郊路線 ●ロンドン・チャリング・クロス(London Charing Cross)〜セブンオークス(Sevenoaks) ●ロンドン・チャリング・クロス〜シドカップ(Sidcup)〜グレイヴズエンド(Gravesend) ●ロンドン・チャリング・クロス〜ルイシャム(Lewisham)〜ウーリッジ・アーセナル(Woolwich Arsenal)〜ジリンガム(Gillingham) ●ロンドン・チャリング・クロス〜シッティングボーン(Sittingbourne)〜シアネス・オン・シー (Sheerness-on-Sea)) ●ロンドン・キャノン・ストリート(London Cannon Street)〜オーピングトン(Orpington) ●ロンドン・ヴィクトリア(London Victoria)〜ベッケナム・ジャンクション(Beckenham Junction)〜オーピングトン イングランド南東都市間路線(主にクラス465/9) ●ロンドン・チャリング・クロス〜タンブリッジ・ウェルズ(Tunbridge Wells)〜ヘイスティングズ(Hastings) ●ロンドン・キャノン・ストリート〜オーピングトン〜タンブリッジ・ウェルズ ●ロンドン・ヴィクトリア〜チャタム(Chatham)〜ドーバー・プライオリー (Dover Priory) |
編成詳細 |
465/0 50本 |
●イギリス南東の旧型車両を駆逐した新規格電車
導入背景、異例の二社分担発注
1980年代後半、ロンドン近郊とイングランド南東の近郊列車(特に第三軌条電化区間)は旧型多扉車の運用が主体であった。当時同エリアを担当していた英国鉄支部、ネットワーク・サウスイースト(Network SouthEast、NSE)はこれらの置き換え用に汎用型新規格列車を導入する事を決定。共通したデザインの車両を大量発注し、ロンドンより南に広がる第三軌条電化路線網のみならず非電化のグレート・ウェスタン本線とチルターン本線、更には新規開業したテムズリンク線で新車導入を経済的に行うため「ネットワーカー」シリーズを1988年に起案。
電化区間では1951年に登場したクラス415が主体のロンドン南東と隣接するケント州の列車に新車を導入する優先度が高かった。NSEはまずその置き換え用に4連x169本、計676両を導入する事を計画していた。当初4連x100本、計400両製造の入札募集を1989年8月に公表、これに対しメトロ・キャメル社と英国鉄傘下のBRELが入札。NSEはBRELの車両デザインが優れていると判断したものの、製造計画についてはメトロ・キャメル社(Metro-Cammel)の入札をより評価していた。妥協策として両社から発注するという異例の事態となり、両社が半々で4連x50本ずつ製造する形となった(両社編成の違いについてはギャラリーを参照)。この直後にメトロ・キャメル社はGECアルストム社(GEC-Alsthom)に買収され、契約はGECに移った。
BRELが製造した50本はクラス465/0、GECアルストムが製造したものは465/2と呼ばれ、1991年に両社の初編成が落成。クラス465が配備次第3編成を併結しての12両運転を行う予定だったが、経費削減やホーム延伸工事の遅れによりこれが当分の間は見合わせられる事が決定。6両、10両運転を可能にするためGECアルストムにクラス465/2をベースとした2連x34本を発注し、これらはクラス466と称された。
1992年3月には更に4連x47本を発注する認可が政府から降り、NSEはこれをBRELを買収したABBから発注。これらはクラス465/1と呼ばれ、基本的には465/0と同仕様である。結果的にクラス465は当初の計画より少なく計674両製造された(4連x147本、2連x34本)。同年10月から同系列は予定より半年遅れて通常営業運転に入り、徐々に旧型車両を置き換えていった。
国鉄から様々な民営会社へ
NSEが満を持して導入を開始したものの、新車両に付き物の初期不良が避けられなかった。1993年8月にはモーター機器不良によりクラス465/0が運用から一時的に外されたり、1996年1月には編成内連結器の不良で編成が走行中に分裂する事態も起きたが次第に信頼性は高くなっていった。
英国鉄民営化に際して1996年10月にロンドン南東とケント州の路線網はコネックス・サウス・イースタン社(Connex South Eastern)が運営する事になり、クラス465も同社に転属。青と黄色帯のラッピングに465/0の一部編成が変更され、それ以外は従来のNSE塗装のままであった。1999年にはクラス375の導入により465は都市間快速運用からは退き中距離・近郊列車とロンドン南東通勤列車の運用に入っていた。しかしコネックス・サウス・イースタンの運営方針は乗客・政府共に不満を呼び、同社の財務経営を問題視したSRA(Strategic Rail Authority, イギリス政府の鉄道業界管理機関)がフランチャイズを2003年に剥奪。次の民営会社へ引き渡す間英政府直属のサウス・イースタン・トレインズ社(South Eastern Trains)がフランチャイズ運行に任命され、同系列も引き継がれた。コネックスは2002年からグレー帯・黄色ドアの新塗装の展開を始めており、サウス・イースタン・トレインズ引き継ぎ後もこれは続けられた。
2004年にはロンドン南東部の各駅停車を担当するクラス376が導入され、クラス465は375担当の都市間快速列車を補強する事となった。これに際してクラス465/2のリニューアル工事がワブテック・レール社(Wabtec Rail)によって施された。在籍した50本のうち34本は先頭車に一等席が新設され、クラス465/9に改称。中距離・快速仕様のクラス465が登場した。
現運行会社のサウスイースタン転属後
2006年からのロンドン南東・ケント州フランチャイズはサウスイースタン社(Southeastern)に授与された。同年にはABB編成の制御機器を日立製作所製のIGBT-VVVFインバーターに更新する計画が持ち上がる。日立が受注したクラス395の契約の一環として建設されたアッシュフォード車両基地で更新工事が2009年から一年間かけて行われた。ABB編成は新造時は全車両に床下機器を覆うカバーが備わっていたが、この時からは空気の流れをよくするため電動制御車の床下カバーは外された。
2010年には同系列のリニューアルが施され、ABB編成はレールケア・ウルヴァートン社(Railcare Wolverton)、GEC編成はワブテック・レール社で行われた。モケットの交換やトイレ設備の一新などが含まれたが、目を一番引いたのは塗装の変更である。統一された最終目標デザインがなかったのか塗装更新が完全ではない状態で出場した編成がいたのか定かではないが、このリニューアルを期に様々な塗装バリエーションが登場した。
2014年にはクラス465と466の全編成が紺色の帯に水色ドアという標準塗装にようやく統一された。現在同系列はロンドン南東部の各駅停車運用やロンドンとケント州の主要都市を結ぶ都市間快速の両方に充当されている。後者には中距離仕様になったクラス465/9が運用に入る傾向がある。これからも当分はイングランド南東部の主力として活躍する見込みだ。
クラス465の仕様
全編成が4連で製造され、制御電動車2両と付随中間車2両の構成。車体はアルミ合金を使用ドア付近のスペースを広げるためにプラグドアを採用しており、片側に二枚扉が二つ車両中間寄りに設置されている。モーターは導入当時画期的だった交流三相誘導式を使用しており、GTO素子VVVFインバーター制御を使用したいたが上記の通りABB編成は日立製のIGBT-VVVFに更新。ABB編成とGEC編成は基本構造が異なるため部品の共有ができず予備部品を2種類常備しなければいけないため総合コストを見ると他の車種より割高である。しかし併結しての運用は問題ない。
(解説・撮影:秩父路号、2016年1月更新)
●ギャラリー
2+3列配置の普通席。通勤・近郊色が強いため高密度配置となっている。
ABB編成(上)とGEC編成(下)の外見は似ているがよく観察すると様々な違いがある:
・編成番号の表示位置
・連結器下部のスカートの形
・車両前面上部の形
・ドアに隣接する窓の上の空気取り入れ口の有無
・制御電動車の床下機器カバーの有無
・屋根の突起物の位置
などが挙げられる。
(撮影:ショートランズ〜ブロムリー・サウス間、Shortlands - Bromley South Station)
サウス・イースタン・トレインズ運用時代のクラス465/1(コネックス・サウス・イースタン新塗装)。制御機器のリニューアル前なので床下機器カバーがまだ健在。
(撮影:エルマーズ・エンド駅、Elmers End Station)
GECアルストム製のクラス465/2。同系列が2010年のリニューアル工事から出場した時は紺色の帯がなかった。
(撮影:ショートランズ〜ブロムリー・サウス間、Shortlands - Bromley South Station)
クラス465/2を改造して登場したクラス465/9。中距離・都市間快速運用を意識しており、編成端部に一等席が設けられた。
(撮影:ショートランズ〜ブロムリー・サウス間、Shortlands - Bromley South Station)
更新済みクラス465/1の水色ドア・紺色帯なし塗装で更に床下カバーもグレーのままの編成。
(撮影:チャリング・クロス駅、Charing Cross Station)
塗装バリエーションの一つとして窓枠が黒ではなく銀色に塗られていた編成も存在した。写真は465/0。
(撮影:ブロムリー・サウス駅付近、Bromley South Station)
旧NSE塗装のクラス465/2。隣にはクラス67ディーゼル機関車がいる。
(撮影:ロンドン・ヴィクトリア駅、London Victoria Station)
リニューアル前の2+3列配置のNSE標準モケットの普通席。
●参考文献・ウェブページ
・「Traction Recognition, Third Edition」 (Ian Allan Publishing) ISBN 978-0-7110-3792-2・Network South East Chronology
・Kent Rail: Class 465/466
・Southern E-Group: Classes 465 and 466