クラス165「ネットワーカー・ターボ」
British Rail Class 165 'Networker Turbo'
チルターン本線用に製造されたクラス165/0(2連)。リニューアル工事で空調が完備され、開閉式の窓が撤廃された。
(撮影:ノーソルト・パーク駅, Northolt Park Station)
●基本データ
デビュー年 | 1990年 |
最高速度 | クラス165/0: 120km/h クラス165/1: 145km/h |
製造会社 | イギリス国鉄鉄道工学部門ヨーク工場(BREL York) |
運行会社 | チルターン鉄道(Chiltern Railways, CR) グレート・ウェスタン鉄道(Great Western Railway, GWR) |
運行区間 | こちらを参照 |
編成詳細 |
クラス165/0 2連x28本、3連x11本 |
●旧型気動車・客車を置き換えた新規格近郊型ディーゼル列車
導入背景:老朽化が進む非電化幹線の主力達
1980年代後半の英国鉄末期にはロンドン近郊路線に未だに旧型の多扉車や客車列車が現役だった。通勤客が年々増加する中、より近代的な車両を投入せざるを得ないとして新規格通勤・近郊型列車の設計を決起。当時ロンドン近郊とイングランド南東の路線を担当していた英国鉄支部、ネットワーク・サウスイースト(Network SouthEast、NSE)がクラス165を二回に分けて発注。同系列はグレート・ウェスタン本線と昔グレート・セントラル本線と呼ばれたチルターン本線の非電化幹線用に設計されたため、ワイドボディ仕様となっている。これはグレート・ウェスタン本線、旧グレート・セントラル本線が標準軌ながら建設時に広く車両限界を取っていた事に起因し、これにより同系列はこれらの路線に運用が限定されている。
クラス165は同時期に地方ローカル線用に開発されたスプリンター気動車シリーズとは異なり、通勤色がやや強い。スプリンターであるクラス156のドア配置は車両の両端に一枚扉が二つ、更に車内は2+2配置。反面クラス165は中央よりの二枚扉が二つ、そして3+2配置とイギリス南東とロンドン近郊での運用をを意識して設計された。更なる同系列の特徴として、イギリスで初めてワンマン運転用に設計された車両でもある。車掌の乗車が必要な場合、編成後方の運転室からドア操作を行う(イギリスでは車掌のドア操作は普段ドア隣のパネルから行う)。
旧型列車の淘汰:国鉄導入時の運用
1990年から1991年にかけてチルターン本線用にNSEがクラス165/0を39編成受領。編成番号は165001から165039まで割り振られ、165001-028は2連、残りの11編成は3連として製造。旧型気動車のクラス115を置き換える形でロンドン・メリルボーン〜バーミンガム・スノー・ヒル間とロンドン・メリルボーン〜エイルズベリー間(アマーシャム経由とプリンセズ・リズバラ経由)の快速、並びに各停列車に導入された。
クラス165/0の運用区間にはアマーシャム〜ハロウ・オン・ザ・ヒル間のロンドン地下鉄メトロポリタン線との併用区間があり、ロンドン地下鉄用打子式ATSのトリップコックを先頭車の前方台車に装備している。チルターン本線ではイギリスでは珍しくATP自動列車停止装置が採用されており、クラス165/0もそれに対応する機器が搭載されているが165/1のほうは未搭載。
1992年にはクラス165/1が37編成グレート・ウェスタン本線用に導入され、165101-137は3連、165118-137は2連となった。最高速度が120km/hに抑えられたクラス165/0と異なり、165/1はギア比が高速運転用に調整され、台車にヨーダンパも設置された事で145km/hで走行可能。クラス47などが牽引する客車列車を置き換え、オクスフォードやベドウィン方面の準快速列車や本線から分岐する数多くの支線での運用に入った。同年にはパディントン駅の信号システムの大幅な改良が行われ、これに伴い非対応の機関車牽引の客車列車は発着不可となった。当時は置き換え用のクラス165/1が十分に配備されておらず、解決策として165/0の3両編成がグレート・ウェスタン本線運用に一時的に転属。後に165/1の増備に伴いチルターン本線運用へと帰還した。
民営化後の運用と現在
チルターン本線用のクラス165/0、39本中34本が英国鉄民営化時にチルターン鉄道(CR)に受け継がれた。1998年にクラス168が導入されてからは速達列車の運用からは退いており、現在はクラス172とともに普通列車、準快速列車に充当されている。2003年末から2005年にかけて同社の編成にリニューアル工事が施され、空調設備の新設、開閉式窓の撤廃等が施された。車内案内表示も一新され、車内には防犯カメラも設置。車端部の一等席は2+2配置の普通席に格下げされ、、車両中央は2+3配置に更新され、車イス用スペースも新設。外装はヘッドライドがLED式のものに交換されヘッドライト周りの黒いアクセントがなくなった他、塗装が青を基調としたCRのものに更新。
グレート・ウェスタン本線ではクラス165/1全編成と165/0が5本(165001-005)民営化時にテムズ・トレインズ社(Thames Trains)に引き継がれ、同社の青・白・緑塗装に更新。1999年にはラドブローク・グローブ列車衝突事故でクラス165(165115)がHSTと衝突し廃車となった。2004年からは後継のファースト・グレート・ウェスタン・リンク(First Great Western Link)へクラス165/1が転属し、165/0x5本がチルターン本線へ帰還する形でCRに転属。
2006年にはファースト・グレート・ウェスタン(First Great Western)とのフランチャイズ統合により165/1の全編成が同社所属となり、2007年には順次ネオン塗装に更新。同時期には運転室の空調設備用機器が車両前面右下に新設。2015年9月からは社名をグレート・ウェスタン鉄道(GWR)に変更し、導入当時と同じ路線でクラス165/1を運用している。社名変更とともに所属車両の塗装変更が現在行われており、クラス165/1も順次深緑を基調とした新塗装に更新中。
近年控える本線電化、将来の運用
2017年にはグレート・ウェスタン本線のロンドン近郊区間の電化が控えており、それに伴いロンドン・パディントンを起点とする近郊・通勤列車はクラス387と365電車に任される。置き換えられたクラス165/1はクラス166と共にグレート・ウェスタン本線西部へ移され、現在クラス150や153などが担当するカーディフとブリストル近郊路線、エクセター・セント・デイヴィッズ〜ペンザンス間等に充当される予定だ。
(解説・撮影:秩父路号、2016年3月更新)
●ギャラリー
CR所属編成の普通車(中央部)。小テーブル付の3+2配置。
CR所属編成の普通席(車端部)。元々一等席だったものを普通席として使っており、肘掛けがある。 |
ラッシュ時には3編成を併結しての運行も。 (撮影:ノーソルト・パーク駅, Northolt Park Station) |
CR所属クラス165/0の先頭車の前方台車にそなわっている打ち子式ATS用トリップコック。 |
中間車の台車、そして先頭車の後方台車はトリップコックが装備されていない。 |
アマーシャム〜ハロウ・オン・ザ・ヒル間はロンドン地下鉄の線路を走行する。写真は3連のクラス165/0。 (撮影:アマーシャム駅、Amersham Station) |
クラス165/0の運転台の様子。 |
ファースト・グレート・ウェスタン塗装のGWR所属クラス165/1(2連)。このネオン塗装は順次GWRの深緑塗装に更新されている。
(撮影:ハンウェル駅、Hanwell Station)
ファースト・グレート・ウェスタン塗装のGWR所属クラス165/1(3連)。写真はヘッドライト更新前の編成で、現在とは異なりヘッドライト隣にマーカーライトがありライト自体もLED式ではなく白熱灯である。
(撮影:イーリング・ブロードウェイ駅、Ealing Broadway Station)
GWRのクラス165/0の普通席。通勤運用を意識して2+3配置で、空調が備わっていないため開閉式の窓が採用。
一等席として使用されていた頃の先頭車車端部座席。よりシートピッチが広い座席と肘掛けが特徴。 |
2015年より普通席に格下げされた先頭車車端部座席。ヘッドレストのリネンが撤去された。 |
旧ファースト・グレート・ウェスタン・リンクのクラス165/1(3連)。同社は新規塗装を導入せず、前会社であるテムズ・トレインズの塗装を継承していた。上記のGWR所属編成と比べて運転室用空調が備わっていないので車両前面右下に空調機器を搭載する箱がない。
(撮影:イーリング・ブロードウェイ駅、Ealing Broadway Station)
旧ファースト・グレート・ウェスタン・リンクのクラス165/1の車内。
●参考文献・ウェブページ
・「Traction Recognition, Third Edition」 (Ian Allan Publishing) ISBN 978-0-7110-3792-2・Wikipedia: Class 165
・Martin Loader's Railway Photography: Class 165
・Newsgroup Archive: 'Boxes' on class 165/166 units